・正の水和、負の水和


 先の「水に溶けるとは」で述べたように、水の中に物が溶けるというのは溶ける物質が水の中で電荷的なストレスを生じずうまく拡散することである。この状態は溶ける側からすると水分子の集合体のなかにうまく潜り込んでいるという状態なのである。逆に視点を水分子の方に転じてみると、水の中に電気的な偏りを持った物質が放り込まれた場合、その物質の持つ電荷を中和する方向にその物質に向かって水分子達は引きつけられねばならない。このような状態を「水和」と呼ぶ。イオンなどの回りには水が構造化される(磁石に砂鉄が吸い寄せられるようなものと考えれば良いだろう)。

 実際、水分子同士の水素結合よりもイオンの持つ力のほうがはるかに強いので、水はある種のイオンを溶解するとイオンの回りに引きつけられ、なにも溶かしてない状態よりも濃い密度で水分子が存在することになる。これを「正の水和」という。ナトリウム、リチウムなどが正の水和をする代表的なイオンである。アルコールや砂糖のばあいも「正の水和」である。

 だが、逆に、カリウムイオンなどではその逆の現象が起こる。つまり、カリウムイオンが溶解すると、回りの水分子は電荷を中和するために引きつけられるのではなく、イオンから反発力を受け、イオンの回りの水分子の密度はなにも溶けてない状態から比べて薄くなる。これを「負の水和」という。アンモニアイオンや塩素イオンも「負の水和」をする。

 ナトリウムイオンは生体内の血液などの細胞の外の部分、つまり細胞外液に多く、カリウムイオンは細胞内液に多い。水和の性質の差とこの分布差の関連は興味深い。

 生物を安楽死させる薬物として塩化カリウムを使うことがある。この薬物の毒性の発現はおそらくこの「負の水和」にあるのではないだろうか。「負の水和」をする物質は水のクラスターを切る役割を果たすとも考えられる。