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・棲息地の水質を探る
人工環境下での飼育水を考えるためには当然棲息地、アマゾンの水質を考えてやらなくてはならない。 アマゾン川の水質は大まかに4つに分けられる(図12)。
アマゾンの具体的な水質データーはなかなか見あたらない。私が持っている文献データーではアマゾン本流の電気伝導度は30−70μScm、南部支流のRio Tapajozで15−30μS/cm、北部支流のRio Negroでは8−15μS/cm(Klee 1977、Mayland、1988 文献8)と言われている。同じ川でもそれぞれの測定ポイント、時期でもかなりの変動があるとは思われる。が、表3の様にこの測定値を裏付けるようなデーターもある。これらのデーターが示す様に、一般にアマゾン川の水の溶存電解質濃度の値はかなり低いようである。 アマゾンは流下時間の長い大河川なので、私たちの感覚からすると、もっと電気伝導度が有っていいはずである。さらに折に触れ現地の写真を見る限り、水はかなり着色していることが多い。 だが、アマゾン川の現実の電気伝導度は低い。なにか特別な訳があるはずである。もちろん、雨が多いのも電気伝導度を下げる一因ではあろうが、筆者はアマゾン流域の熱帯特有の土壌の影響が多々見られると考える。 水質と同様、地域偏差は大きいとは断っておかなくてはいけないが、アマゾン流域には次の3つの地質学的特徴がある。 1つは、アマゾンの地質自体が非常に古いことである。南アメリカプレートは地理的に古く(文献10)、その誕生はおよそ10億年前である。そのために風化や塩類の溶脱が進んでいる(文献6)。また、温度の高い熱帯地域では温帯地域とはちがい、土壌中のケイ酸分の脱落が起きる(温帯の土の主成分はケイ酸分)。温度が高いとケイ酸の溶解度が高くなるからである。また、風化の課程で土中のケイ酸分が抜け、アマゾンの土壌は鉄やアルミニウムが多い(文献7)。鉄やアルミニウムは植物に利用されないので土壌中に残留する。このような土壌はラテライトと言われる赤土である。 2つ目の特徴は表土中に植物の腐植によるいわゆる腐植酸分が多いことである(特にアマゾン本流よりも北側の支川)(文献5)。 3つ目の特徴は、地域偏差があるもののアマゾンの表土(腐植分の堆積)は一般に非常に薄いことである。そのため植物を養う養分の絶対量が少なく、非常に貧栄養な土壌なのである(文献6)。アマゾンの表層の腐葉土の深さはわずか50〜100cmくらいに過ぎない。これは先に述べた風化、溶脱の結果に加え、強烈な太陽エネルギーのもと、植物による腐葉分の再利用が活発に行われているからである。 上記のようにアマゾンの土壌はもともと栄養塩類が乏しく、電気伝導度を上げる物がないのである。おまけにただでさえ乏しい塩類を、繁茂する夥しい数の植物が遠慮会釈無く奪っていく。そのため、熱帯雨林の塩類のほとんどは植物の中に貯蔵される。植物はマット状の細根をもち、電解質を吸い尽くす(文献10)。従って、水の電気伝導度が低くなる。蛇足であるが熱帯の樹木は板根という特殊な板状の根、若しくは支柱根といわれるつっかい棒のような根を持っている。これは薄い表土のなかで自らを支えるための適応である(文献10)。 さらに、森林の腐敗土の腐植酸は電解質をよく捕捉する。リグニンやタンニンなどのフェノール性水酸基やカルボキシル基に富んだ腐植酸が水中の電解質を捕捉すると同時にpHを下げる。腐植は陽イオンのトラップ能力が大きい。これも電気伝導度低下要因となるのである。 しかし、まだおまけがある。腐植は陰イオンに関しては捕捉力が少ない。従って、腐植以外の要因として、ラテライト土壌によるイオン交換とコロイドの生成をも考えあわせた方が合理的であると言える。上記の土壌的特徴のように熱帯地方の土壌の性質はケイ素分が少なく、鉄、アルミニウムが多い。このような土壌は天然のイオン交換樹脂とも言えるほど陽イオン交換量が多い(もっとも陽イオンについては、腐植のほうがさらに交換量が多い)。それに加えてpHが低ければ、アルミニウム酸化物、鉄酸化物は陽イオンだけでなく、陰イオンもトラップするのである。 この鉄、アルミニウム酸化物は電気的な引力で不純物を吸い寄せる。これらは水中で他の電解質を引き付けコロイド(疎水コロイド)を形成する。鉄やアルミニウムは天然のフロック(凝集塊)なのである。フロックとは浄水場で使われるもっとも重要な浄水手段のひとつであることをご存じだろうか。 こういった多様な理由で熱帯雨林は電解質が溶けていない水となっている。だが、地質由来の浮遊粒子が漂っていたり、もしくは腐植成分などが溶けていたりはする。つまり電解質以外の含有物は少なくないのである。それ故に水は着色しているように見える(アマゾン本流の茶褐色は浮遊物、懸濁物の色、ネグロ川などの、いわゆるブラックウォーターは腐食物由来といったどちらもコロイドの色であろう)。アマゾンの水は電気伝導度は小さいが決して何も含有していないわけではない水なのである。 先に電気伝導度の値の意味をよく知るようにという話をさせていただいた。アマゾンの低電気伝導度は、ROやイオン交換樹脂で処理した低電気伝導度水とはかなり意味あいが異なるのである。 そしてもう一つ理解してほしいことがある。それは、我々の住む温帯の水と熱帯の水には本質的な違いがあることである。ROを使った水処理には汚物を取り除くだけでなく、熱帯魚が住めるように水を再構築するという意義が有るのである。 話は変わるが、ディスカスがなぜこのような低電気伝導度でも生存できるのかという疑問が残る。一つには食物由来の電解質で体内の電解質不足をカバーしているのではないかという説がある(文献8)。さらに、浸透圧を考えた場合には、イオン性の溶質(電気伝導度に寄与が高い)だけでなく分子性の溶質(電気伝導度に寄与が低い)も浸透圧に寄与するので低電気伝導度でも魚の鰓調節の負担は少ないのではないかとも考えられる。一般にコロイドには浸透圧への寄与はないと思われるが、会合物質やキレートなどでは浸透圧への寄与があるのではと考えられる。 浸透圧については記述済みである。 |
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