・薬浴と薬の吸収性(薬は盲目に使わない)

 日本で使える観賞魚専用の薬は少ない。抗菌剤、抗生物質の類はニフルスチレン酸ナトリウム(商品名エルバージュ)やオキソリン酸(商品名パラザン)、多少のサルファ剤、鰓や体表駆虫剤としてはトリクロルフォン(商品名マゾテン、リフィッシュ)、絨毛虫治療薬としてメチレンブルー、マラカイトグリーンなどくらいであろう。

 魚だけでなくその他の広い用途に殺菌剤として使われるホルマリンや過マンガン酸カリウム(カメレオン試薬)などは観賞魚を、「物」としてとらえればそれらの使用は合法的な範囲であろうが、動物に対して使って良いかの正確な判断がないような気もする。また、原虫治療薬として使うメトロニタゾール(商品名フラジール)や駆虫薬として使うパモ酸ピランデル(商品名コンバントリン)は明らかに人間用の薬なのでその使用は日本では法律的に疑問があるであろう。

 まあ、仮にこれらの使用することまでを許容するにしても、観賞魚を対象に日本国内で使うことの出来る薬剤の範囲は世界に類を見ないほど限定されている。海外では観賞魚に対して広い範囲の薬の投薬が認められるし、実際に使われている。と言うわけで、海外産の魚がトラブルを起こした場合、日本で使うことが出来る範囲の薬をもって対処しようとしたところで所詮は無駄な努力である部分があることはまず覚えておいて欲しい。まったく薬を使うなってことではないのだが、このような状況なので手持ちの薬では対処できる可能性が少なく、薬剤の使用を考えるよりは、まずは環境を見直し、病気にさせない工夫をすることが大事である。

 そのために必要なのは言うまでもなく水質(供給する水の)、栄養、濾過、飼育密度などである。ここでそれらのディテールを再度述べようとは思わないが、病気になったからさあ薬を使いましょうという短絡的な思考はやめて欲しいわけである。その最たる話を2つほど紹介する。niftyserveのfaqauasなどで言われるコンバントリン浴であり、一般的にそこかしこでみられる穴あき病への薬物治療である。

 まず前者についてなのであるが、コンバントリンを水の中に撒いたところでそれが魚の体に吸収される可能性は実はきわめて低い。

 淡水魚は水をほとんど飲まないので水に撒いた薬物が吸収されるとしたら鰓からしかない。鰓から吸収されるものは水の中に溶ける、若しくは分散しなくてはいけないのであるが、コンバントリンはほとんど水に溶けない。これはコンバントリンが吸収されない理由付けの一つである。

 また、仮に鰓から少しは吸収されたところで、その体内での動きはまるでもって不明であるので明確に効果があるという証拠はなにもない。おまけに、このような駆虫薬が消化管の寄生虫を退治するという効果を十分に発揮するには消化管を通る必要があるのだが、血液循環にのった薬物が前部消化管に未変化体、もしくは活性をもつ物質として排泄される可能性は少なく(主に排泄されるのは消化管中部以降であるし、その際には代謝をうけ薬物本体とは異なった物になっている)、コンバントリンを水に撒くのがいわゆる寄生虫由来の拒食症の治療になるとは思えない。

 飼育水中の虫卵を殺す効果があるということも考えにくいし、しいて理由を挙げるなら、ドライシロップの甘味がアペタイザーの役目をしている可能性が有ることぐらいしかないであろう。魚は甘みにはけっこう敏感と言う説は確かにある。

 次に穴あき病(HITH:Hole in the Head)についてであるが、穴あき病は観賞魚を飼育する上で使われる薬では到底治療できない。穴あきはヘキサミタという原虫が原因と言われる古典的な疾患であるが、まず素人レベルでは薬物療法が困難である。そんな訳でこの病気に対しては基本的には予防が一番である。

 まずは持ち込まないことが肝心である。頭に穴が開いているような魚がいる水槽からは魚を抜かないようにされたい。それからネット、水抜き用のサイフォンなども水槽毎に用意し、共用は避ける。もっとも、穴あき病自体はそう簡単には水槽から水槽へ移らないのであるが、他の病気の持ち込みのことも考えこの習慣は励行されたい。

 次にめったやたらに高温で飼育しない、季節の移り変わりによる温度変化を最小限に押さえるなどの温度管理も必要である。この病気は季節の変わり目の温度変化する時期におきやすい。

 それと関連して、餌と水質(供給する)が不適切な水槽ほどこの病気はおきやすい。穴あきの大半は栄養強化、特にカルシウムやビタミンDなどによって防ぐことが可能と言われている。下手に硬度を下げてわざわざ飼いにくい環境を作らないのが肝心である。実験と言うほどのことではないのであるが、筆者はROの効果を評価するために餌を一定なものにする必要性から、一年ほど、ほとんどハツ肉だけと思われるハンバーグを使ってディスカスを飼育をしたことがあった。このとき、HITHが多発した。これは餌を改善する(加熱、使用基材の変更および飼料添加物の使用:詳細は後述)ことで見事に改善した。それ以降HITHはほぼ皆無になった。というように、HITHは薬浴よりはむしろそれ以外の方法でしか軽快しない。

 話は本題から遠く逸れてしまった感もあるが、上記2例は、現行で流布する見当違いの薬浴使用例である。ほとんどの内臓的な疾患の場合と一部の外的なトラブルの場合、薬浴の効果はないと言って差し支えない。特に内蔵の病気の場合、本質的には薬は餌に混入して食べさせる、若しくは強制投与、注射すべきものである。(但し、注射をするのは普通の人にはまず無理である。)

 また、薬剤の飼育水への散布はトラブルが起きている貧弱な飼育環境をさらに悪い状況へと持っていくことが多いことも頭に入れておかなくてはならない。だからこそ不用意に薬をばらまくのは止めるべきである。魚を飼育する以上、「魚病学」をしっかりと勉強し、防疫、栄養をまずはこころがけ、薬の使用は必要最小限にする飼育スタイルを身につけて戴きたい。

 外的なトラブルの中でも鰓の場合は薬浴が有効なことが多い。だが、その使用の際には、トラブルの原因が何かをよく把握する必要がある、すなわち、このような場合には顕微鏡的な観察も必要なのである。鰓のトラブルの場合は薬がちゃんとあえば、功を奏することも多い。但し、それにはトラブルの種類をきっちりアイデンティファイする必要があることは言うまでもない。すくなくとも死んだ魚の鰓は顕微鏡で見よう。単生虫などの有無で有れば虫眼鏡でもみえるはずである。トリコジナやキロドネラなどによる鰓のトラブルはホルマリンで治療可能だが、ダクチロギルスによるトラブルはホルマリンではあまり効かず、違う薬による薬浴が必要となる。鰓の治療の薬は内臓系に薬浴として使う薬よりも魚や環境に負荷が多いので適切な薬剤を選択してやる必要がより高くなる。