・エロモナス・・・水温、水質、餌との関係

 魚を飼った経験がある人なら鰭が腐れるといえばカラムナリス(Flexibacter Columnaris)を思い出すであろう。これによる尾ぐされ、鰭ぐされ(鰓、口、肌までも)の特徴は白い綿をかぶるもしくは、白い粉を葺いたような感じになり、瞬く間に尾鰭が溶けていく。カラムナリスの好発温度は27-28度でディスカスの飼育温度とも一致するが、ディスカスではあまりカラムナリスを見かけない。

 それに変わってここ数年よく見かけられるのが、エロモナスによると思われる鰭の欠落である。私が見る範囲ではこの病気が起きやすい条件としてもっとも特徴的なのが温度変化のようである。すなわち、春先や秋口などの温度変化が起きやすい時に多発する傾向がある。次に、水が軟らかい、若しくは内容の乏しい餌を与え続けていることでこの病気が起きやすくなる傾向がある。さらに汚れた水槽ほど、そして濾過を強力にしているほどこの病気が発生しやすい。

 この病気の症状的な特徴は初発的には口吻のまわりや鰓の付け根の充血みたいな発赤であり、さらに鰭におけるピンホール状の穴あきである。また、尾鰭や背鰭に小さな裂け目が入ったりすることもある。

 で、日時の進行とともに背鰭や尾鰭が少し溶けた感じになり、さらに進むと背鰭が(ピンホールが大きくなるような感じで)U字状に欠落したり、尾鰭がギザギザなフレアー状になったりする。また、鰭条は溶けるというか折れるみたいな感じで脱落することもある。鰭の溶けている部分はやや黒い縁取りがある。

 正直に言うと、残念ながら今の私の技量では本当にこれがエロモナスであるかを断定する鑑別能力はない。また、パラコロ病(エドワジエラ症)、ビブリオ病、赤点病など似たような症状を呈する物が多く、これらが混合感染することも多いと聞く。また、発生温度からするとエロモナスの多くを占めるAeromonas hydrophilaではないようである。温度から言うとAeromonas Salmonicidaの仲間ではないかと推定される。

 時期を同じくして鯉の世界では「新穴あき病」という病気が騒がれている。私はディスカスのこの症状が鯉のこの病気に近い感触を持つ。品評会の機会の多い鯉の世界ではこの病気はかなり深刻のようである(出陳の機会はそれだけ感染の機会を持つことになる)が、それなりに対策が見つかっているようであるので、この病気の治療をお考えの方は鯉の関係のホームページを見て見ると良いかも知れない。

 私が知っている限りでは市販の観賞魚用薬剤は無力である。一番の対策は予防である。そのためには、

 1.餌の内容を考える(これは次章で書く)

 2.夏場の温度をむやみに高くしない。経済的に余裕があるのならエアコンをい   れて水温が30度を超えないようにする。

 3.あまり極端に軟水にしない。

 4.水槽内をいつも清潔に心がける。

 5.濾過能力を必要以上に高めない。

などである。1.については次章で改めて解説するが、その他について以下に説明を加えておく。

 まず、2.の温度についてであるが、ディスカスは魚である、魚は変温動物である。変温動物は温度変化に弱い、若しくは温度変化で多大なストレスを受ける。だから「ディスカスは温度変化に弱い、若しくは温度変化で多大なストレスを受ける」。なにも奇を衒うためにこんな三段論法を持ち出したのではないが、現在のディスカスの飼育論の中でもっとも重大な過ちの一つはディスカスが高温で飼育するもの、もしくは温度変化に強いということである。ディスカスはたまたま高温でも死なないだけの調節能力を普通の魚よりも持ち合わせているだけで、本質的には変温動物の魚なのである。だからディスカスにとって高温はストレスであるし、温度変化にも弱い。温度の変化という大きなストレスがあると日常的には病原とはなりにくい常在菌であるエロモナスの被害を受けるのである。

 3.は1.にも通じるのだが、魚は栄養を水から鰓や皮膚の間隙を通して摂取する。例えば、精製水を水槽にぶち込んでも明らかに栄養不足になり魚の防御機能の低下をもたらす。だからRO垂れ流しがそれだけでは上手く行かないのである。もちろん、軟らかい水はカルシウム、マグネシウム分が無く、それだけ緩衝力を持たないことになり、pHがぎくしゃくする原因となる。温度が高いとその傾向が強くなる。

 4.については自分でも反省すべき機会が多々なのであるが、やはり手入れが行き届かず、汚れている水槽ほど発病の機会が多いように思える。さらにそれと平行して面白い傾向は同じ汚れた水槽でも濾過が軽いほど発病の機会が少ない傾向である。濾過の容量や濾材の量をやたらに増やすよりも、スポンジだけ、もしくはゴミ取りのウールだけをいれた小さな上部濾過くらいの軽い濾過にしておき、あまり濾過に頼らず、綺麗な水作りと水換え中心で管理したほうがこの病気を被らないような気がしてならない。濾過がしっかりしていれば一見良さそうではあるが、その理想的な濾過を作り上げることが困難であるし、濾過は常に生物的な意味での不確実さを伴い、悪いターンに入ってしまうとなかなか抜け出せないということもあり、濾過に重きを置く飼育は楽そうに見えて実は楽ではない。

 この点では上記のような軽濾過の東南アジアや香港のバカバカ水を換えるやり方が一番躓きにくくて良いのであるが、コストや手間としては難しいのは確かである。私のような田舎に住んでいれば水道代も比較的安価でこれでも良いかも知れないが、都市部の方にはあまり勧められる方法ではないことは確かである。