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・ハンバーグの中身・・特にエロモナスと稚魚のヨークサックとの関連 ディスカス・ハンバーグという珍妙な餌がある。生き物には生餌をやるべしみたいな妙な信仰めいた考え方が根強くある。しかし、これはナンセンスである。何故って、以前にも言ったと思うが水槽の中のような極めて閉鎖的な環境の中に非加熱の食材(細菌、原虫などのオンパレードであること間違いなし)をほうり込むのは危険極まりないことだからである。このような餌を与えることはそれが原因で病気になりなさいって言ってるようなものである。 人類がここまで万物の霊長として君臨してきた理由は火を使うことを学習したからに他ならない。「自然界の生物はみんな生で餌を食ってるよ」って、そんな意味のない比較論を言わないで欲しい。閉鎖的な水槽環境の中は自然界よりもはるかにストレスが多いし、微生物がアウトブレイクしやすい環境にあることをゆめお忘れ無く。 と言うわけで、ディスカスの餌には全部加熱した素材を使ってほしい。加熱の方法は茹でることで問題ないと思う。焼くのは問題がある。また、茹でることによって失われるビタミン類等は素材の工夫と飼料添加剤などで積極的に補給すればいい。いきなり飼料添加剤といわれても困ろうが、どんなものを強化すればよいのか、具体的にどのような素材を選び、どのような栄養素に留意すればよいのか、そのわけも含めて少しお教えする。 まずは、前章のエロモナス予防対策として、ベータカロチンが有効という説がある。これらはカボチャ、ニンジン、ホウレンソウに含まれることはよく知られているところで、添加剤でなくともこれらを餌に入れても良い。特にベータカロチンが劇的に効くという感触はないのであるが、いろんな栄養素を含んだ素材、添加剤を使うことによって一般的に魚は耐病性を増すと言える。もちろん餌だけでなく、前章にて述べたいろんな対病対策も必要ではある。 また、これは海外のMLで見かけた話なのでちょっと眉唾物であるが、ビタミンDがエロモナスではなくヘキサミタによる頭の穴あき(Hole in the Head)に有効では無いだろうかと言う経験説がある。通常それなりにこれらを含有した食材を使うので、餌に特に強化する必要はないのだが、或る程度カルシウム、マグネシウムを含んだ水のほうが魚の抵抗力を増すという話を聞いたことはある(ビタミンDはこれらのミネラルの腸管からの吸収を助ける訳だが、環境水からの取り込みにどのように関与しているかは不明で、ちょっといい加減な話のような感もある。もちろん、ビタミンDの活性化の問題もあるし、水の緩衝力があるかないかということがもたらす影響の関連が無きにしもあらずであろう)。ヘキサミタは加熱餌で大幅に改善することは間違いない。何故ならヘキサミタを生じるような原虫類の持ち込みがなくなるからである。 ちょっと余談が過ぎたが、食材を加熱し、ロスする分を含めて全体的な栄養補強(ビタミンやミネラル)を行うとHITHやエロモナスの発病頻度は劇的に改善する。とは言え、ビタミンA、D、E、Kなどの脂溶性ビタミンは過剰に投与するとかえって弊害も起きるので注意が必要である。 ビタミンEは冷凍飼料中の油脂分の酸化防止とともにそれによる弊害をなくすために是非必要である。ビタミンEが不足すると飼料中の油脂(特に不飽和脂肪酸)が酸化されるとともに生体内での脂肪酸酸化も引き起こしてしまい、結果として「背こけ」といわれる、背部の筋肉が壊死したり萎縮したりしたガリガリの状態の魚が出来てしまう。ディスカスは冷凍餌をあげる機会が多いのでビタミンEの強化は是非とも必要である。 水溶性のビタミンとしては魚類全般としてB1、B2、B6、B12、ニコチン酸、C、葉酸、パントテン酸などが必要と言われている。イワシなどにはB1を分解する酵素が入っているので餌の中に入っていると欠乏症を起こしやすい。B1、B2の欠乏症では体色暗化、成長不良が起きる。B6の欠乏では遊泳異常などの神経障害鰓蓋の反りなどが認められる。B12は造血には不可欠であるが、欠乏症が顕在化しにくいので問題となってない部分がある。但し生体には絶対的に必要なものであるので欠乏させないようにするべきである。ニコチン酸の欠乏症は高死亡率をもたらす。また、パントテン酸の欠乏では鰓弁の棍棒化を来すという。Cの欠乏症では背曲がり、内臓の出血傾向がおきる。またCは性ホルモンの原料であるステロイド骨格の生合成には不可欠であり、欠乏症により産卵や孵化率の低下などがおきる。 不飽和脂肪酸には各生物種に固有の要求があると言われている。ディスカスの近い仲間であるティラピアはリノール酸だけを要求すると言われている。リノール酸だけでなく、リノレイン酸、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)など各生物種毎にいろんな割合で必要な不飽和脂肪酸の割合が異なって来る。ディスカスについての脂肪酸要求が学術的に検討された例を知らないが、淡水魚であることからEPAやDHAはまず特に必要ないであろうし、多分ティラピアのことからも推測されるようにリノール酸の要求が高いで有ろうと思われる。そういう意味では餌の基材としては魚肉よりも獣肉のほうが好ましいと言えるが、リノール酸を強化するために少し豆類を入れればベースとしては魚肉で構わないであろう(豆類は細胞膜を構成するリン脂質の強化という意味でも重要である。)。なお、魚肉ベースの餌のほうが圧倒的に水を痛めない。推測するに主に油脂の違いであろう。この水を痛めないという事実こそが魚肉ベース餌を推奨する最大の理由ある。 ベースの魚についてはまだいろんな研究の余地があるので一概に言えないが、不飽和脂肪酸やアミノ酸の要求から考えるとディスカスと同じような魚を選ぶのが栄養的には一番優れているのでは無いかと思われる。そういう意味ではティラピアが一番かも知ないのだが、あまり市場には出回っていないし、出回っていたところで養殖物だろうからイワシなどを原料としたいわゆるブラウンミート育ちであり、栄養的にはかえって問題が有る。蛇足だがイワシなどのいわゆる青魚系は新鮮で有ればそう問題はないようだが、先に言ったように油脂の劣化という問題を生じる可能性が有るので、冷凍していても古いものは絶対使わないように。そんなわけでベースとして一番向いていると言うか手頃なのは白身の天然海水魚ではないかと言える。 アミノ酸のバランスでも白身魚がもっとも適しているといえる。魚のアミノ酸組成はその活動性によって異なる部分もある。先にも述べたがイワシ、サバなどのいわゆる青魚やブリなどの高速遊泳魚は活動量が多くヒスチジンが多いが、あまり活動しない魚ではヒスチジンは少なく白身になる。ディスカスはあまり高速遊泳するような魚では無いので白身の魚を与えたほうがよりアミノ酸バランスが良いであろう。各種アミノ酸は白身魚ベースの餌を与えていれば過不足ないであろうが、エネルギー源として糖代謝を司る甲状腺ホルモンの前駆体であるチロシンは重要である(その意味ではヨードの強化も必要である)。もっともチロシンは普通に魚や肉ベースの食材を与えていれば特に不足することは無いであろう。 次に、このセクションの表題にも書いたのだが、稚魚のヨークサックの中身と言うことも念頭に入れて餌を作ることも必要がある。この意味では鶏卵の黄身が良いとは思うが、残念なことに卵の黄身は水に対してかなりヘビー・ロードで、あまり餌に入れるのは好ましくない。ちなみに鶏卵の白身は食べ残しになりがちである。 稚魚は産卵から孵化、自由遊泳を経て親の肌をかじるようになるまでの1週間弱の間稚魚は分化発達する、運動するための栄養を自らのヨークサックでまかなわなくてはならない。そのため初期レベルでの繁殖が上手く行く行かないは親にどのような栄養を与えるかが重要なキーポイントになる。以前にも述べたが、ディスカスハンバーグの先駆者が人工孵化の先駆けであることはかなり笑える話である。ハツベースの栄養だけでは稚魚がうまく育たつには栄養不足だということの如実な例である。 繰り返しになるが、ほぼハツのみのハンバーグを一年ほど使った私のところの繁殖成績は散々なものであった。まだ、赤虫のみのほうが幾分ましのようであった。鶏の卵が駄目だったから代わりにと言うわけではなく、こちらのほうが元々本命だったのであるが以前より繁殖効率を上げるために魚卵の使用を検討している。ベースとしての白身魚の有用性と同じような考え方のもと、魚卵が有用ではないかとは考えてはいたが、入手できるほとんどのものが醤油やたれ漬け(イクラ、タラコなど)、使える種類が少なくさらに高価という事情もあり、残念ながら未だ試すことに至っていない。 話はちょっと脇道に逸れるが、受精の成功するために精巣の中ですでに蓄えておかなくてはならない養分についても少しかんがえてみよう。ほ乳類の場合、受精の成功のためには精子はその量及び運動量が問題になる。そのためには亜鉛を強化する、もしくは欠乏症を作らないことが肝心だと言われている。亜鉛はこのほかにも様々な酵素に含まれており、生体の運動や発育には必要である。魚の場合も事情は同じだと推測される。従って程良く亜鉛を含んだ食品を供与する必要がある。だが、亜鉛は多ければ過剰症が有るので注意されたい。また、精子は水の中を泳がなくてはいけないので、耐浸透圧能と運動エネルギーが必要になる。そういう意味ではリン脂質やATPの強化も必要になる。これらの強化は卵の耐浸透圧能の向上と孵化後の稚魚の運動エネルギー源としても重要であろう。 話は戻って再び母胎の卵巣中での卵の栄養を考えてみる。卵子を成熟、産卵に導くには様々な性ホルモンや成長ホルモンそしてビテロゲニンと言われる雌性タンパク質などの関与が必要であるが、今回はこれらについては取り扱わない。主に卵黄の各成分について考える。 魚の卵はその発達段階や種類によっていろいろと千差万別あるが、概ね、卵膜、表層原形質、卵黄胞、卵黄球、油球からなる。 卵黄球は脂肪、タンパク(両者併せて脂質タンパク質)、多糖類、鉄、カリウムなどを含む。脂質タンパクと多糖類は胚発生後の重要なエネルギー源になる。 魚種によっては欠落する場合も有るが、グリセリンやコレステロールを含む油球をもつものが有る。油球成分はおそらく食餌などによる外因性のものと言うよりは内因性、つまり生合成するものであろうから強いて補強する必要は無いと思える。なお、これらの油球の成分は生体の膜構造の原料になるので、生物の分化の上では必須なことが多い(先述のように魚の中には卵に油球を欠くものがある)。 卵黄胞はムコタンパク質と多糖類を主成分とするが、卵黄胞は受精時に崩壊し、内容物が卵の中に放出される。この内容物の果たす役割は私自身にとって定かではないが、想像するに受精直後の細胞分裂でできる新たな細胞を構成するための材料もしくは細胞分裂自身のための養分となっているのではないだろうか。また、卵自身の形の維持のためにも必要なのであろう(睾丸にある、ヒアルロン酸を分解するヒアルロニダーゼは受精時に精子の卵子への進入を容易にすると言われている)。 ムコタンパク質とはムコ多糖とタンパク質が結合したものである。ムコ多糖にはヘパリン(動植物の、肺、血中に存在)、コンドロイチン硫酸(軟骨に多い)、ヒアルロン酸(真皮、関節液、骨などの結合組織)、キチン(菌類の細胞壁や節足動物の外殻)やその他シアル酸由来の多糖類(動物細胞膜に大量に存在)などがある。これらはでんぷんやグリコーゲンが貯蔵多糖と言われるのに対して構造多糖と言われ(植物繊維であるセルロースは構造多糖の代表的存在)、生物の細胞間質に充填されている。生物の構成成分(組織を維持し、柔軟性をもたらす)で有るとともに、遺伝的伝達、免疫、成長などに関わる。このようなムコ多糖とタンパク質のセリン、トレオニン、アスパラギン部位で結合したムコタンパク質が持つ意味、果たす役割は非常に難しい。想像するにムコ多糖単体よりもさらに遺伝的、免疫的な意味あいが強くなるのではと思われる。また、ムコ多糖は外因的よりも内生的に作られるとも言われており、キチンなどの添加に意味があるかどうかははっきりしない。 話はかなり複雑怪奇になってしまったが、魚の繁殖を考えた場合魚の卵を栄養を強化することが必要条件であり、それには魚の卵を与えるのが一番簡単なような気がする。ただ、それはコスト的な問題(一般的に魚卵は高価)もあり難しい側面もある。それを考えると、繁殖を強化するために加えるべきものとしてはっきり言えるビタミンC(各種性ホルモンの生合成に関与)、リン脂質、アミノ酸、鉄(卵黄の成分)、マグネシウム(糖代謝に重要)、ビタミンB群(糖やアミノ酸の代謝に関連)などを添加することが繁殖を上手く運ぶ上には必要なのである。 餌関連として最後に触れておくが、魚の喰いをあげるためには魚の食欲を昂進させるものを配合する必要がある。それらの一般的な回答として、アミノ酸、ベタイン、ヌクレオチドなどが挙げられる。具体的にどういうものがこれに該当するかは各自で調べて欲しい。早い話がこれらは一般的な「うまみ」成分である。 そんなわけで、いま私が作っている餌は白身魚をベースに、エビをその1/4量くらい、鳥肝もエビの2/3量くらい入れている。それにバナナ、ニンジン、ホウレンソウを少々、さらに各種粉ものを使っている。もちろん、粉もの以外は全部煮ている。粉ものの具体的な品名、添加量は商品化の都合もありすべてをお教えできないが、脂溶性ビタミン、水溶性ビタミン、鉄、亜鉛、マンガンなどを含む飼料添加剤に加え、海草類(成長のためのヨード強化)や鰹の削り節、干しエビ(喰いをあげるため)などをミルで挽いて粉にしたものを加えている。 また、このパートを書いている最中(99年5月)に一度餌を作ったのであるが、その際にはイクラや大豆粉も入れてみた。餌喰いや水の汚れといった意味では問題は無い。目下、水槽設備の改装中で水が出来上がったペア水槽がないので、繁殖への影響を評価出来ないのは残念である。ペアがスタンバイの状況で添加物を変えてみるべきであった。 |
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